歴史マニアのための魏晋南北朝史~歴史の真髄〜

三国時代から西晋、八王の乱、永嘉の乱、そして東晋と五胡の時代へ。

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石勒というカタストロフィ〜本来石勒は英雄だった〜


石勒とは何者か。

歴史に埋もれた英雄である。

 

 

 

この人物は、
中華史上、最大の成り上がりを成し遂げた人物である。
歴史の流れから考えると、
大変重要な人物である。

 

魏晋南北朝期において、
最も重要な人物だと私は考える。

 

●石勒の実績は四つの史上初と、中華統一王朝を滅ぼすという歴史的快挙

 

・最大の成り上がり者 奴隷から皇帝へになった最初で最後の人物。
    →劉邦、朱元璋以上の成り上がり。
・事実上西晋を滅ぼした人物。
・胡漢融合策の初めて実行
・異民族として初めて中原掌握
・国家として初めて仏教を保護。

 

この5つを石勒は成し遂げた。

 

石勒がこれらを成し遂げた、

華北の覇者となったことから、
中華の次の歴史が始まる。

 

石勒の登場は、石勒以前の歴史を闇に葬り去ったと言ってもいい。
石勒後は、全て石勒の影響を受ける。

 

王朝の興亡ではなく、
時流で考えると、
石勒の登場が五胡十六国時代の幕を開け、
南北朝時代を経て、隋の楊堅が、
石勒から三百年弱に渡る漢人・異民族の興亡戦を終わらせるのである。

 

石勒が西晋を事実上滅ぼしたことで、
古代漢人王朝は途絶える。


石勒が胡漢融合策を初めて取り、隋の楊堅が完成させる。


石勒が異民族として中原を掌握して以来、
純粋な漢人が華北を掌握するということは、清朝滅亡までなくなる。


石勒が仏教を保護したことを端緒として、
宗教が国家統治のキーファクターとなる。

 

全て石勒が主語となってしまう。

石勒という時代のパイオニア(先駆者)が中華の歴史を激変させた。

 

 

●中華史上の快挙である石勒が異民族である悲劇

 

 

この輝かしいはずの石勒が異民族という
歴史の悲劇。

それが石勒がピックアップされない理由である。

 

石勒の登場以後、
全てが石勒に端を発するものであり、
それは後年の時代を背負う者からすると
認めたくないものであった。

 

中華という本来平和的な文明の優越性を守るためには
やむを得ないことであった。

 

本来文弱な中華文明は、軍事大国の周辺部族に
大層弱いエリアであった。

五胡十六国時代から南北朝にかけて、優秀な軍事司令官に

漢人貴族はひとりもいない。

 

そもそも中華文明というのは洛陽の成り立ちからもわかるように、
平和な交易文明なのだ。

 

それなのに、我々日本を含めて、
北狄、東夷、西戎、南蛮に始まり、
匈奴、鮮卑、高句麗、契丹、女真、モンゴル、満州、
そして日本と、常に中華は戦火に晒されてきた。

 

ど真ん中にある中華文明が魅力的でありすぎるからこそ、
周辺部族が侵入してきてしまう。
それも、軍事的に弱いと見ればなおさらである。

 

文明度が高い洗練された中華が、
周囲をならず者達に囲まれているこの事実。

 

そして、そのならず者達に蹂躙され、
融合し、また新たに周囲を差別する中華を再生させる。

融合した段階で、元の異民族は中華になるのである。

そして、また異民族をその元異民族が差別するのである。

 

この繰り返しが中華の歴史である。

本来、商や周、戦国七雄なども異民族がメインプレイヤーだ。
ただ、中華という概念が確立したのは漢である。

漢から三国時代、西晋、東晋までは中華を純粋に
継承している漢民族と言える。

 

しかし、石勒が登場してしまったことで、
オリジナルの中華と今が異なっていることがわかってしまう。
今の中華が異民族の色合いが含まれていることが
わかるのはよろしくない。


それを消し去るためには、
石勒を歴史から葬り去りたいということになった。

これが、
本来は英雄であるはずの石勒が歴史の中で埋没してしまった理由である。

石勒が登場するのは、
中華史という「伝説」にふさわしくないのである。

 

●参考図書:

 

中華の崩壊と拡大(魏晋南北朝)

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中国歴史地図集 (1955年) (現代国民基本知識叢書〈第3輯〉)

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西晉の武帝 司馬炎 (中国歴史人物選)

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魏晋南北朝 (講談社学術文庫)

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シナ(チャイナ)とは何か (第4巻) (岡田英弘著作集(全8巻))

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東アジア史の実像 (第6巻) (岡田英弘著作集(全8巻))

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