歴史マニアのための魏晋南北朝史~歴史の真髄〜

三国時代から西晋、八王の乱、永嘉の乱、そして東晋と五胡の時代へ。

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胡漢融合を成し遂げた前秦王猛

 

 

●東晋の緩やかな分裂。

 

東晋は、

謝安と桓沖の手打ちにより、

376年

謝安が東晋の実権を握る。

 

桓沖は桓温以来の勢力を保ちながら、

荊州に撤退。

 

桓沖は事実上の軍閥として荊州に残る。

 

桓温に由来する勢力は、

荊州に事実上の独立勢力として成立する。

 

この状態は、

桓温の末子桓玄が簒奪し皇帝となり、

その後404年に劉裕により敗れるまで続く。

 

376年以降、

東晋は分裂の時代へと入る。

 

●自制を促す王猛が死去すると、歯止めが利かなくなる前秦。

 

一方、

前秦だが、

375年に丞相王猛が死去したことが大きな影響を与えた。

 

 

王猛の登場により、

国力を蓄えることに腐心。

その後前燕の混乱に乗じて侵攻し滅亡させ、

華北の支配者となった。

 

国内をまとめ上げて、

軍事行動に出た王猛。

 

ひたすら我慢の時を過ごし、

それが結実したから良かったものの、

これは相当に胆力が必要なことである。

 

特に異民族となると、

我慢の時を維持するのは難しい。

 

同時代の前燕慕容恪は、

無理に攻めたてることはしなかったため、

散々身内から弱腰と叩かれた。

 

東晋が持っていた洛陽攻略戦において、

慕容恪は今まで臆病者と言われてきたが、

今こそ総攻撃をする時、と言っている。

 

慕容恪が将兵達を我慢させてきたからの言葉であり、

そして誰よりも我慢してきたのは慕容恪であった。

 

王猛も苻堅の信任の下、

我慢の時を過ごす。

 

内部をまとめ上げていたからこそ、

前燕慕容垂の亡命という千載一遇のチャンスに、

迅速に対応ができるのである。

 

前燕を滅ぼし、華北の覇者となった前秦。

 

軍事行動を活発にさせたいのは道理である。

 

●苻堅のナルシスト傾向

 

 

しかし、王猛は、

前燕滅亡の成功要因をわかっていたし、

華北統一後の危うさを理解していた。

 

旧前燕領域を収め切っているわけではないし、

慕容氏、姚氏と言った異民族の名門(異民族の名族と言ってもいい)

を傘下に収めていた前秦。

 

前秦苻堅は中華の教養を修めた者である。

儒教の徳という考え方を理解するものである。

だから、異民族であるにもかかわらず、

とにかく敵対者に寛容だ。

 

高い徳を修めれば、敵対者も心服するという

考え方を体現したいのが苻堅である。

 

苻堅自身としては、

徳があるからこそ、前秦は治り、前燕を滅ぼし、

慕容氏や姚氏は服属、さらに心服したと信じたい。

 

しかし、

これは思想であって、

そう現実は甘くない。

 

●胡漢融合こそ、前秦の成功要因。

 

徳があっても慕うようになるまでには

それなりの時間が必要である。

漢人には苻堅ら異民族に対して根強い差別意識も強い。

漢民族同士の上下であれば伝わる部分も

そうそう簡単には伝わらないのだ。

 

執政者として、

前秦の統治、また胡漢融合を推進してきたからこそ、

王猛は認識していた。

 

だからこそ、

軍事行動を慎むよう進言をする。

 

しかし、

大勝に沸く国内を抑え込むのは簡単ではない。

 

前秦の高位を占める異民族出身者達は、

そもそも戦いが好きだ。

 

異民族は弱肉強食の文化であり、

自らの力を誇示したい風潮がある。

 

 

さらに、

前秦苻堅は、

中華の教養を修めたからこそ、自分は徳があり、

中華統一を成し得るまでにふさわしいはずだ、

それに向けて益々修養しようと考えるのが人情である。

 

異民族に本当は支配されたくない漢人。

漢人を支配して良い思いをしたい異民族。

一度は苻堅に従ったとはいえ、やはり自立して苻堅のようになりたい異民族のトップ層。

異民族でありながらも真の中華皇帝になりたい皇帝苻堅。

 

これら4者さまざまの正に同床異夢といった状況を

王猛は理解していた。

 

これらに配慮しながら、

胡漢融合をしたのが王猛であった。

 

同時代でこれができたのは、

他には慕容恪であろう。

 

胡漢融合は

この時代の政治課題なのである。

 

苻堅の時代、胡漢融合が進んだとはいえ、

まだ道半ば。

 

しかし、ことが順調に運んでいるのであれば、

挑戦したいものである。

 

王猛は自身が375年に死ぬまでは、

これをまとめ切った。

 

しかし、

翌年から前秦は戦役を繰り返す。

 

国内がまとまらないまま、

領土を拡張する。

 

前燕亡き今最大のライバルは東晋だが、

東晋も貴族名族対旧桓温勢力のつばぜり合いが続き、

動きが鈍かった。

 

チャンスであり、前秦はその高い軍事力で

完全に華北を統一した。

 

●参考図書:

 

中国歴史地図集 (1955年) (現代国民基本知識叢書〈第3輯〉)

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