異民族の皇帝が中華皇帝として
完全になるために、高句麗が必要となる。
今回はそれについて述べたい。
●隋唐の高句麗遠征
自身の正統性に疑義のある隋。
本当は異民族なのに漢人として中華皇帝を名乗る。
正統性がない、だからこそ逆に正統性にこだわるというこの逆説。
こうして、
隋以降中華王朝が正統性を万全にするという考えが生まれた。
そのわかりやすい事例が、
隋の煬帝による高句麗遠征である。
高句麗は五胡十六国時代の前燕が
服属させていた国である。
前燕は遼東から河北にかけて版図を持ち、
皇帝を称した。
しかしながら、当然、
華北から華南といういわゆる中華全土を
支配する隋からすれば格下である。
その格下である前燕が服属させた高句麗が
従わないという事態を隋は許せないのである。
さらに言うと、
前燕も鮮卑、隋も鮮卑だ。
これもよくない。
同族蔑視というか、
同じ血なのにできないというのは、
劣等感を引き起こす。
こうして、メンツをかけた高句麗遠征が行われる。
高句麗遠征の前線基地となるのが、幽州は薊である。
幽州は完全に中華と言える場所である。
だから、大運河の終着駅となった。
ここには水運を使って容易に物資、
人足が集まる。そしてそこから旧満州方面へと影響力を及ぼすのである。
●隋の崩壊の経緯は秦に類似。
隋の煬帝は、
この高句麗遠征で身を滅ぼす。
高句麗遠征が泥沼化し、
隋国内で反乱が頻発した。
結局のところ、
これは隋の煬帝の失政や奢侈などではない。
秦の始皇帝が中華統一をした後と同様である。
400年の長きに渡って、
分裂してきたという中華の歴史を塗り替えた隋。
とはいえ、
今までは分裂していたという歴史認識は早々変えられるものではない。
隋の支配に親しむ前に、
大掛かりな遠征をして、滞ったところを各地の何となく隋に
反発勢力が立ち上がっただけである。
こうして、隋は唐に取って代わられる。
こちらは、ただの異民族主義である。
一言で言えば弱肉強食で、
のちの太宗李世民がそれに忠実だっただけである。
●完全な中華皇帝になりたいから李世民も高句麗にこだわる。
異民族らしい弱肉強食主義の李世民。
立ち上がり、天下を取る。
父、兄、弟を追い落としての天下である。
これほど、
異民族らしい異民族も実はいない。
さて、しかしながら、
李世民も高句麗という政治課題は避けて通れなかった。
高句麗を倒さなければ、
中華皇帝としてパーフェクトではないのである。
李世民も隋の煬帝と同じく、
鮮卑の名族であった。
李世民もやはり漢民族の中華皇帝として振る舞うこととなった。
だから高句麗が必要なのである。
中華皇帝李世民が完全に皇帝になるために
高句麗が必要なのである。
・李世民のメンツ
またさらに、
李世民は隋が失敗しているので、
その思考回路はわかりやすい。
前王朝の隋ができなかったことを、
隋を倒した李世民自身が
成し遂げれば、隋を完全に越えることになる。
これは李世民にとって、
是が非でも必要な政治課題であった。
しかし失敗するのである。
●参考図書: