歴史マニアのための魏晋南北朝史~歴史の真髄〜

三国時代から西晋、八王の乱、永嘉の乱、そして東晋と五胡の時代へ。

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幽州の歴史④幽州の支配者がはじめて中華皇帝となる。

 

王浚死後、

幽州は石勒・石虎の後趙、

遼東は鮮卑慕容氏が支配することとなった。

 

互いに好戦的な勢力である。

 

後趙の侵攻を何とか鮮卑慕容部は撃退、

徐々に周辺勢力を潰して力を蓄えていく。

後趙が争乱状態となると、

いよいよ幽州、そして中華の本拠中原へとなだれ込む。

 

 

●遼東出身の鮮卑慕容部が幽州を足がかりに中華王朝へ変貌

 

中華王朝の後趙石虎を撃退した

鮮卑慕容部。

 

これが、

石虎死後の混乱に乗じ、

幽州を奪取。

 

薊、現在の北京に本拠を移し、

そのまま河北(黄河以北の東半分)を支配。

 

357年には鄴に遷都し、中華王朝へと変貌する。

 

異民族の中華王朝がまた出来たというのが

歴史上の一般的な説明だが、

もう一つ大きな意味がある。

 

遼東、高句麗の支配者鮮卑慕容部が

中華王朝になったということで、

高句麗と遼東が

文句なしに中華に組み込まれてしまったということである。

 

●遼東の中華化

 

まず遼東である。

遼東は司馬懿が公孫淵討伐で屈服させたことで

中華との関係が継続し始める。

遼東には漢人の交易拠点を置いて、

周辺の異民族と交易をした。

 

ここには、

漢人と異民族の区別があった。

漢人は、中華王朝史観があるので、

異民族は別物と考えていたのである。

 

だから遼東の支配権を中華王朝が失ったとしても、

国力が落ちたなと思われるだけで、

中華王朝の正統性に疑義が出るわけではない。

 

洛陽や長安、鄭州・開封周辺の中原を失ったら、

そうはいかない。

 

この三エリアは中華の歴史を体現するエリアだからである。

 

このように、

異民族エリアという区分があった遼東。

しかし、ここ出身の

鮮卑慕容部が皇帝を称してしまうと

中華の歴史は彼らを異民族としておけなくなってしまうのである。

 

●「正しい」皇帝のなり方

 

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・中華の歴史に喧嘩を挑んでしまった前燕慕容儁

 

鮮卑慕容部で初めに皇帝となったのは、

前燕の慕容儁である。

 

彼は前代からの天命を受け継ぐという形ではなく、

自身で勝手に皇帝になりますとして皇帝になった。

 

これは中華の歴史からすれば、

僭称である。

 

皇帝のなり方というのは、

この五胡十六国時代の中期では様々な事例がある。

 

例えば、

王莽は高祖劉邦の霊魂が夢で禅譲をしたという話に始まり、

光武帝の瑞兆、

曹丕の禅譲、

劉淵の漢の復興、

石勒の再三の辞退にもめげない人臣からの推戴、

などである。

共通するのは、

皇帝には皇帝になる本人の意思で成ってはいけないのである。

 

天命を受け継ぐという伝説を作らないといけない。

天命という見えないものを信じさせるという意味では、

真の意味での実力主義がこの皇帝即位なのだが、

誰かが誰かを打倒するという実力主義とは違うのである。

中華の歴史において、「王」までは実力でなれるのだが、

「皇帝」は別物である。これを知らなかった慕容儁は、

皇帝を僭称することで中華の歴史に挑戦してしまったのである。

 

こうして中華王朝、中華の歴史は

鮮卑慕容部を放っておけなくなった。

 

皇帝を僭称して中華の歴史に挑戦した、

鮮卑慕容部は、

中華王朝からすれば、中華の歴史、すなわち

自分たちの正統性を脅かしかねない存在であるとなった。

 

中華の歴史からすれば絶対に許せない存在なのだ。

中華の歴史、それは正統な中華王朝の歴史のことである。

 

となれば、逆に鮮卑慕容部および遼東を完全支配することが、

自分たち中華王朝の正統性を誇示することになる。

 

こうして遼東は中華となった。

 

中華圏が広がったのである。

 

●遼東の中華化で高句麗を従属させられるかどうかが中華の歴史において政治問題化する。

 

さらに、

鮮卑慕容部は旧満州の高句麗を従属させていた。

 

かつて、鮮卑慕容部をはじめとした鮮卑族たちと

同じ立ち位置が高句麗となるのである。

 

中華の歴史において、

異民族鮮卑の立ち位置が高句麗に変化する。

 

地理的に、西から幽州、遼東、高句麗。

中華、中原から見てこの北方の地は

幽州を通ってからしかアクセスできない。

 

遼東、高句麗を支配するための拠点が

幽州となる。

 

こうして、

どん詰まりであった幽州は、

遼東・遼西統治、高句麗服属のための重要拠点と
変貌する。

 

●参考図書:

 

中国歴史地図集 (1955年) (現代国民基本知識叢書〈第3輯〉)

中国歴史地図集 (1955年) (現代国民基本知識叢書〈第3輯〉)

 

 

 

中華の崩壊と拡大(魏晋南北朝)

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世界史年表・地図(2018年版)

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魏晋南北朝 (講談社学術文庫)

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